テスラ、電池交換システムを断念!?

コラム （2019/12/20）

エンジンを搭載する自動車を作らないメーカー、テスラ。社名を聞けば、このメーカーが電池式電気自動車を開発、製造、販売を行う会社であることはもうすっかり認知されていると思う。2008年に最初のEV車をリリースしてから10余年。日本でも少しずつ見かけるようになる中、構想を進めてきた電池交換システムを断念するというニュースが入ってきた。その真意は？

・モデルSは、わずか90秒で電池バック交換
10年以上にわたって電気自動車の開発に取り組んできたテスラ。EV車両だけの自動車会社として、日本にもディーラー（同社での正式名称は「テスラストア」）を構えている。現在は、2016年3月に発表、予約が始まったモデル3が現行車として最新モデルに該当する。発表からわずか1週間ほどで32万5千台が予約されたという。また、コンパクト･ラグジュアリーセダンタイプのこの車両は、日本では2019年5月に受注をスタートさせ、納車は9月中旬から始まった。満充電状態での航続距離は、「スタンダードレンジプラス」（2019年2月末から受注を開始したバッテリー）でWLTP基準409km、パワートレインにデュアルモーターAWDを搭載するタイプの「ロングレンジ」では同基準560kmに及ぶとされている。また、停止状態から3.4秒で時速100kmまで達するパワーも併せ持つ。

一方、テスラの名を世に知らしめた車両として有名なのが、モデルS。2008年に最初のEVとなるスポーツカーの「ロードスター」をリリース後、2012年からアメリカで、日本では2013年からセダンのモデルSが発売を開始している。現在は、床下に新規開発されたパナソニックのリチウムイオン電池を搭載しており、満充電での航続距離はWLTP基準で最大610kmと言われており、同社によると発売の時点で市販されているEVでの最長航続距離を記録したことになる。

なお、このモデルSにおいては2013年の時点でバッテリーを自動交換するシステムを発表。この際、なんとわずか90秒という短時間で満充電のバッテリーが手に入るというデモンストレーションを行った。付加価値のあるサービスであるため、当然作業費は有料ながら、電池がなくなれば当然充電が必要であり、その作業も早い時間でバッテリーそのものを交換するという発想自体が斬新であると、話題となった。最初に搭載されていたバッテリーは交換を実施した充電スタンドに保管され、充電後に交換したものと入れ替えることで自分のバッテリーが返還されるという。また、同社としても充電スタンドにこの交換システムを設置していきたいという考えを提示していた。だが、テスラ3の生産、販売が始まると、この交換式バッテリーの構想自体が暗礁に乗り上げてしまい、ついにはプロジェクトそのものを断念することに至ったようだ。

・航続距離の延伸も理由のひとつか
テスラ社では、モデルS発売後も電池交換システムの開発に取り組み、実際2015年には電池交換システムの特許を出願、2017年には公開も実施。実用を目指していたようだ。しかし、前述のようにテスラ3の発売後は、その歩みが遅々として進まなくなった。その原因として、電池交換のための基地への投資ではないかという声もある。常に交換用のバッテリーを確保しておかなければいけないこと、さらに1台分のステーションを設置するだけでもおよそ50万ドル（およそ5500ま万円）と言われており、交換作業による売上を加味しても、わずか90秒の作業を行うための設備投資としてふさわしいものかどうか、そこに着眼する必要性が出てきたのではないかと思われる。

一方で、2017年頃には、同社のCEOを務めるイーロン･マスク氏が「スーパーチャージャー」について言及。実際、当時のモデルに比べておよそ3倍以上の出力でチャージ可能という「スーパーチャージャーV3」を2019年3月に発表。モデル3の車両では、5分間の充電で75マイル（およそ120Km）走行可能となった。また、先述のようにモデルSにおける航続距離は最大610km、モデル3では、560kmに達する。さらに充電に必要な”待ち時間”が年々短縮されているのであれば、交換式を求める声はさほど大きくない、という考えに至っても不思議ではないのだ。

EVの普及に合わせ、搭載される技術やシステムの進化も進む中、充電に要する時間などの”EVだから”という特別感がなくなることこそが、EVにおける真の浸透における”ものさし”になると言えそうだ。