ルノー・FCAの経営統合案に揺らぐ日産

コラム （2019/05/30）

先日、ヨーロッパ大手のフィアット･クライスラー･オートモービルズ（以下、FCA）がフランス･ルノーグループへ経営統合の提案を申し出た。ルノーはこの統合案を前向きに検討する方向だと言う。かりに統合が実現すると、ルノー、日産、三菱の三社連合と合わせて世界新車販売ランキングで世界トップの連合企業に踊り出る。世界最大グループは成立するのか。

・ルノー、日産に経営統合計画に同意を求める
話はまずFCAからルノーに対して経営統合案の提案があり、ルノーが前向きに検討することを決めたことから始まる。FCAとしての狙いは、「急速に変化を見せる自動車業界におけるEVや自動運転を含めた技術変革を牽引するグローバルリーダーになる」こと。待ったなしのEV化、自動運転へのアプローチを強化しつつ、近い将来、自動車業界が強いられる”クルマの在り方”への変革に対し、柔軟に対応しなければならないという危機感があることも否めない。自動車が点から点への移動ツールではなく、通信技術を伴う”コネクテッドカー”として新たな存在感をアピールするためには多くの技術開発が必要であり、また、その開発競争のライバルは自動車メーカーにとどまらないというシビアな現実を直視した結果でもあると思われる。

事実、FCAは、EVでライバルから出遅れ、加えて自動運転システムはアメリカ･グーグル系のウェイモに依存している。またルノー自体もヨーロッパではEV分野で強みを発揮してはいるが、コネクテッドカー関連の開発は日産に頼っていると言われている。つまり、次世代の自動車産業においてFCA、ルノーともライバルよりも後手に回っていることもあり、今回の統合実現によって経営効率を高め、共有化によって生まれる資金を新たな技術開発に投入しようという考えがある。

・日産、経営の自主性は守れるのか
FCAが提案の内容として、FCAとルノーが統合会社の傘下に両社がぶら下がる形で統合し、比率は50対50になる。成立すれば、年間販売台数は870万台で世界3位に。さらに日産、三菱が加わった”四社連合”になれば、販売台数は1559万台となり、現在トップのドイツ･フォルクスワーゲンの1083万台を軽く超える世界トップへと躍り出ることになる。

そこで気になるのが、日産の動きだ。現在、同社でCEOを務める西川広人氏は、将来に向けてポジティブな話であるとコメントしていると伝えられているが、巨大連合が実現されることになれば、現在のルノーと日産の関係性に変化が現れるのは間違いないだろう。規模が世界的に拡大することによるメリットは計り知れない。だがその一方で、日産としての独自性や存在感は弱まる。

片や、ルノー側は、今後FCAとの統合議論に加え、これまで遅々として進まなかった日産との交渉、つまり統合にむけての議論を”同時進行”させていくとしている。欧州系の心強いパートナーが現れ、日産との交渉をより有利に進めていくのではないか、という見方もある。となれば、日産の立場としてはメリットも大きいが、その”代償”も覚悟しなければならないという話になる。日産として、諸手を挙げて統合を賛成しているわけではないが、間口が広がるというポジティブな面を踏まえつつ、その影響の大きさがどれほどか慎重に検討する必要は避けられない。これまではルノーの背後にあるフランス政府（ルノー株の15%を所有）の存在も気になるところではあったが、FCAはイタリア･フィアット社がアメリカ･クライスラー社を完全子会社して2014年に誕生した会社であり、高級車「マセラティ」や「アフファロメオ」、さらにはSUVの「ジープ」などを販売しており、29%の株は創業家が実質的に握っていると言われている。ともすれば、フランス政府に変わり日産への影響力が大きくなる危険性もはらんでいる。

グローバル企業として生き残る道を模索する日産としては、統合によって得られるものも多い反面、そこに足を踏み入れることによって失う、もしくは制限される自主性もあるはず。そのどこに焦点を当てて話を進めていくのか…。”ゴーン･ショック”の余波が思わぬ形で発生しているようにも思われる。