トヨタ、Uberに出資。その狙いとは？

コラム （2016/06/05）

5月25日、トヨタ自動車がアメリカUber社への出資を明らかにした。アメリカで配車サービス大手として知られるUber（ウーバー）社とライドシェア領域における協業を検討する覚書を締結、トヨタは今後、ライドシェアビジネス拡大の一端を担いつつ、新たな活路を見出すことになる。果たして、その狙いとは？

・ライドシェアビジネスへの戦略的出資
トヨタ自動車が発表したリリースによると、協業に対し、今後は「お客様のニーズやビジネス環境、規則動向などを踏まえつつ、海外でライドシェアビジネスが拡大している国･地域において、試験的な取り組みを始めながら、協業を模索していく」という。出資に当たっては、同社グループ企業であるトヨタファイナンシャルサービス株式会社および未来創生ファンド（トヨタ自動車、三井住友銀行、スパークス･グループの3社が設立したファンド）が、Uber社に対し手戦略的に出資するという。

ここでまず、Uber社がおこなっている事業を説明しなければならない。現在、同社の主力事業である「UberX」は、個人が自家用車を持ち出し、タクシーとしてのサービスを提供するもの。個人の車に、依頼者がライドシェア（共有）するという、シェアリングエコノミーをビジネスモデルとしたものだ。タクシーの配車サービスとは一線を画すものであり、プロのタクシードライバーが専用車両で行なうサービスと大きく異なる。誕生は2009年、現在日本を含む多くの国と都市でビジネスが展開されている。一方、規制が厳しい日本では、シェアリングサービスを白タク、つまり違法扱いのサービスとして見なしており、現在、日本国内では提携するハイヤー会社やタクシー会社がクルマを配車するというサービスに留まっている。

だが、海外に目を移すと、登録されたドライバーが自らの乗用車でタクシーよりも格安に乗車利用ができるとあり、利用者が増加。また、ドライバー登録することで、手軽に副収入を得られるという点で登録者も多く、現在、登録しているパートナードライバーは世界中に100万人以上いるとも言われている。利用者はまず専用アプリを携帯端末にダウンロードし、車を手配を依頼する。すると、Uber社のシステムが携帯端末付近を走行している提携車両を呼び出すという仕組みになっている。利用者がUber社にクレジットカード情報を登録しているため、支払い時のトラブルもなく、また、利用の際にはドライバーの顔写真や車両情報も携帯端末から確認できるため、不安要素も少ない。


・トヨタの狙いは、使用車両のリース
今回の協業で、まず取り組みのひとつとして挙げられたのが、トヨタファイナンシャルサービスによるユーザーへの車両リースだ。Uberのサービスは、登録ドライバーが自由の利く時間と所有車を活用し、いわゆる臨時収入を得るという視点がベースとなっていた。だが、近年は格安の乗車料金による利用者の増加によって、Uberを収入源のひとつとして選択するドライバーが増えており、車両をリースすることで、「自家用車はないけれど、短期集中でUberの仕事をしたい」という人とのビジネスを確立しようとしているのだ。リース料金も、そのドライバーがUberドライバーとして得た収入から車両のリース料を支払うというシステムを構築した。

実際、すでにUber社がドライバーに向けて車両導入を支援する「Vehicle Solutions」というプログラムを提供しており、トヨタ側もこのプログラムに同調するような形でリース期間を柔軟に設定可能にしていきたいとしている。トヨタによるUber社への出資提携が、今後、日本国内でのライドシェアへと早急に結び付く可能性は、残念ながら低いと思われるが、世界の自動車メーカーの動向に目をやれば、すでに多くの自動車メーカーと新規事業のコラボレーションという形はもう珍しいものではなくなっている。例えば、ドイツのBMW社はヨーロッパはじめ、北米でSixt社（ドイツのレンタカー会社）とのベンチャー会社を設立し、同社の小型車であるMINIやBMW iを使い、カーシェアリングサービスを展開しているという。また、VWグループもイスラエルの新興企業Gett（ゲット）へ、さらにアメリカGM社は同じアメリカの配車サービス大手であるLyft（リフト）へと、いずれも巨額の投資を行なっている。この「戦略的」提携による新たな事業が、自動車メーカーにおける新たなビジネスモデルのひとつとして今後は存在感を見せていくことになるのか。要注目だ。